僕の通っていた小学校では、毎年5月、6年生が修学旅行で東京へ行きます。そのときの思い出を今回は綴りたいと思います。
修学旅行の楽しみといえば、みんなで一緒に入るお風呂ではないでしょうか?
僕は、小学生のときから既にホモ少年だったので、「大浴場で同級生のチンコを見られるんじゃないか?」と期待で胸がいっぱいでした。一方で、「入浴中に勃起したらどうしよう?」という不安もありました。
大浴場に入ったら、普通に勃起しているクラスメイトもいました。彼は、小学生の割には逞しい包茎チンポを堂々と晒し、「もう毛が生えてきたんだぞ!いいだろ~」と薄い陰毛まで自慢していました。バカだとしか言いようがありませんでした。が、そんな彼のチンコに圧倒されたのか、僕のものは萎んだままでした(笑)
短い時間で、ギャーギャーワーワー言いながら、みんなでお風呂を楽しみました。特に性的な何かがあったわけでなく、修学旅行の平和なひとときがあっただけでした。しかし、悲劇はその後に起こったのです!
みんなで大浴場から出て着替えが始まりました。そのとき、クラスメイトのAが大きな声で叫びました。
「お~い!ここにブリーフが落ちてるぞ!しかも、ウンコの付いてるミソパンだぞ!」
Aの指差すところには、一枚のブリーフが落ちていました。Aの言う通り、お尻の当たる部分には、遠目からでも分かる茶色い染みが滲んでいました。床に落ちたブリーフの周りに、着替えの終わった男子達が集まり出しました。「うわっ、汚ねぇ!」「エンガチョ!」などと声が聞こえてきます。みんな遠巻きに見て嫌そうな顔をしていますが、興味津々であるのは確かでした。そう、彼らが知りたがっていたのは、この「ミソパン」の持ち主だったのです。
「このミソパン、誰のだよ~?」
Aは、わざわざ大きな声で周りに問いかけます。返事はありませんでした。
そこに、大浴場から和利(仮名)が出てきました。彼は、肌がやや浅黒く、髪が茶色ががっていて、彫りの深い顔に大きな目が特徴的なイケメン君でした。運動神経が良くて、特にサッカーが好きな少年です。頭はそんなに良くありませんでしたが、それを補って余りある容姿と運動神経とで女子にも人気がありました。実は、僕も彼に興味を抱いていた一人でした。
その和利がAの前に来てキッとAを睨んだ後、落ちていたブリーフを拾いました。ギャラリーの男子達はざわつきました。小学生というのは分かりやすい生き物です。自分よりも魅力的な子どもには、みんな一目置くのです。が、逆に、誰かの弱みを握ったガキどもは、餌食となった子どもに面白半分で群がるのでタチが悪いのです。「ミソパン事件」が起こるまで、和利は男子達からも尊敬の眼差しで見られていました。それが事件をキッカケに一転し、みんなから白い目で見られるようになったのです。修学旅行2日目から、和利は「ミソ」と呼ばれるようになりました。
「ミソパン事件」を知らない女子は、和利が「ミソ」と呼ばれていることに疑問を抱きました。そんな女子の一人Bに、Aはわざわざ事情を話したのです。
「和利のブリーフには、いつもウンコが付いているんだぜ!だから、俺達は、和利を『ミソ』と呼ぶことにしたんだ」
それを聞いたBは、元来のおしゃべりな性格もあって、女子全員に「ミソパン事件」を言い触らしました。それまで和利に憧れを抱いていた女子の多くも、「汚い~」と言いながら、和利を避けるようになりました。口の悪い女子になると、「ミソ、近寄らないで!ミソがうつるでしょ!!」と大げさに言っていました。
男子からも女子からも軽蔑された和利は、泣いたり怒ったりしませんでした。しかし、ポツンと一人で佇んでいる彼の姿は、苦しい心境を醸し出していました。さぞツラかったことでしょう。
もっとも、僕の通っていた小学校は、田舎の牧歌的な雰囲気があったため、過酷なイジメが発生したわけではありません。和利に殴る蹴るの暴行を加えたり、私物を壊したり……といったことはありませんでした。ただ、和利は卒業まで「ミソ」と呼ばれ、何かあるたびに「エンガチョ!」などとからかわれ続けたのです。
僕も、和利本人が見ていない所では、「ミソの机触っちゃった~汚い~」などとふざけていました。が、内心では、「可愛そうだな……」と思っていました。
卒業間際のある日、僕は和利と二人で校舎の裏を掃除することになりました。箒と塵取りを持って、僕達は誰もいない場所へ歩いて行きました。木枯らしの吹く寒い季節でした。僕達はジャンパーをまとって身を縮こまらせながら、無言で歩いていました。ふと僕は和利に声をかけたのです。
「なあ、和利……」
和利は、僕の方を振り向きもせず、どんどん歩きながら応えました。
「何だよ、しゅうと?」
「いや……あの……」
僕は口ごもってしまいましたが、無理矢理喉の奥から言葉を発しました。
「和利、ごめん!僕も、みんなと一緒になって和利のことを『ミソ』とか言って……僕、本当は和利のことを悪く言いたくなくて……」
和利は足を止めて、僕の方を振り向きました。冷たい風が、男子二人の頬を撫でて行きました。
「別に気にしてないから、謝らなくていいよ。どうせ、あと少しで、この小学校ともお別れだし」
セリフはぶっきらぼうでした。が、和利の瞳の奥にある光を僕は見逃しませんでした。彼は、僕が見方であることを知って、嬉しい気持ちになったに違いない――そんな確信を抱かせる光でした。
この日、僕達の間にこれ以上の何かがあったわけではありません。その後も、僕達の関係が発展することもありませんでした。ただ、僕は、和利のことを二度と「ミソ」とは言わなくなりました。彼の机やランドセル等に触れても、「えんがちょ!」などとふざけることも無くなりました。僕はやっぱり和利のことが好きなんだ、と自分の中で何度も言い聞かせたのです。もちろん、その思いを和利に打ち明けることはずっとありませんでしたが……
今回は、特にエロくもなければ、オチもありませんでした。何となく小学校時代の思い出を綴っただけでした。最後まで読んでくださった皆さん、本当にありがとうございました。